October 17 2018

緩和ケア病棟でのアロマセラピー

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命の尊厳
今から15年前、私は高槻日赤病院の緩和ケア病棟でのアロマセラピートリートメントを始めました。当時、ジャパン・エコール・デ・アロマテラピーに学びに来てくださっていた看護師さんが勤務していた病棟でした。その看護師さんにご紹介をいただいたのです。それまで、単発で緩和ケアとしてのアロマセラピーを行うことはありましたが、定期的に病院を訪問して行うというのは初めてでした。この頃、まだセラピストサービスソレイユも正式には発足していませんでした。
訪問を始める前に、その時の病棟長の先生に面談した時のことを今でも覚えています。とても優しそうな先生で(実際優しい先生でした)、お話の内容はほとんど覚えていませんが、今でも強く印象に残っているのが、その時、先生がオルゴール療法に興味を持っていることをおっしゃっていたのと、先生が私に質問されたことでした。「患者さんが死にたいって言ったらギルさん、どう思われますか?」と質問されたのです。そういう言葉が出るくらいの辛さを患者さんが感じているということですが、実は、この何年かのちに、私の父がガン治療を受けていた病院で、母もガンであることを告げられた日、帰りのタクシーの中で母は「もう、死にたい」と言ったことがありました。それくらい、精神的に追い詰められるのです。この質問に対し、わたしは「患者さんには自分の命をどうしたいのか、自分で決めることが許されていいと思います。たとえそれが間違いであったとしても、間違うこともその方に許されるべき自由だと思います」というような内容のお返事をしました。先日、亡くなった女優の樹木希林さんの言葉として、『死ぬ時くらい好きにさせてよ』というのがありますが、そのような意味です。尊厳死については、正しいかどうかは別として、命について自分なりの軸を持っているかを先生はお知りになりたかったのかもしれません。


セラピストとしての死生観
緩和ケアの患者様たちは死を目の前にされている方々です。アロマセラピストがその方々のもとへ行き、弱った身体に直接触れてトリートメントをし、コミュニケーションが可能な方とは会話もする。病院として患者様の命を支え、心をケアし、治療をしている現場に、海のものとも山のものともわからない人間が、国家資格でもない、アロマセラピストという資格でやってきて、そういう行為をすることを許可する、というのは、常識で考えればかなり大胆であり、患者様に害が及ぶ危険もはらんでいることだとは思いませんか? 
でも、それを許してくださったのがその時の病棟長でした。でも、きっと、完全に信用してくださるまでは一年くらい、様子を見られていたような気がします。
ボランティアとしてのネームカードをいただけたのが、一年くらいしてからでした。緩和ケア病棟の職員の皆さんは、何年も毎日のように看取りをされています。それにくらべ、そういう経験をしたことがない自分が、いきなりそんな現場に行って大丈夫なのか、心身の苦痛を持つ方々を前にして、取り乱さないでトリートメントができるか、不安を持ちながら施術初日を迎えたのを覚えています。
人間にとって、死とは必ずいつかやってくるもの、自分が愛する大事な人たちにも、そして自分にも。それがいつやってくるか、わかりません。突然やってくることもあります。
頭では理解できていても、感情的には普通の人間にとってはこのことを受け入れることは苦痛を伴うことです。お釈迦さまが、「生老病死」という人間の苦しみから逃れたくて修行を始めたくらいですから、とても辛いことなのです。


職業倫理
このところ、アロマセラピーの基礎とハンドマッサージだけをさっと学んで、いきなり困っている人の施術をしにボランティアに行く、という方が増えている気がします。私はここにとても疑問を感じます。たとえボランティアであっても、アロマセラピーの知識はもとより職業倫理や人間の心理のことなど、必要な事をきちんと学ばなければ、助けたいと思っている相手に逆に迷惑なことになったり、心を傷つけたりして、信用を失う可能性があるのです。それはアロマセラピストという職業の信頼性を落とすことなのです。英国のようにアロマセラピストが多く医療現場で活躍している海外では、医療や介護の現場にアロマセラピストが入るためには、かなり専門的な訓練を受けていなければ許可されません。日本でもそうしたプロセスが必要ではないでしょうか?

Category / アロマコラム

Author / Kazue Gill

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