月別アーカイブ:2020年7月

「人の役に立ちたい」と考える人にとって、セラピストはとても魅力ある職業です。
特に、ストレス社会と言われる現代の日本においては、そのような癒しに対するニーズは高く、
「セラピストの力を借りて前向きな気持ちを取り戻したい、元気になりたい、辛い症状から解放されたい」と、
サロンを利用されている人達はたくさんいます。また、近年では病院や施設の中で、
辛い闘病生活をされている患者さんに対して、心の支えとしてのマッサージやアロマセラピーを行うことも多くなってきています。

セラピストを目指してスクールに入学される方々の中には、かつてセラピストに癒された、アロマセラピーで元気を取り戻したから、自分もセラピストになって、心と体の疲れた人たちを癒してあげたい!という動機をお持ちの方が多いのです。かつて私もその一人でした。

人を癒してあげたい!という強い思いは、セラピストにとって最も大切な動機です。人が元気になっている姿を見ることが本当にうれしい! そう思えることがセラピストにとっての幸せです。しかしながら、実際、それだけでは、セラピストとして仕事に就いて、日々、心身の疲れや問題を抱えたお客様のケアを出来るわけではありません。

自分がセラピストになれるかな、と考えたとき、セラピストに求められることがどのようなことなのかを、まず知る必要があります。そのうえで、ご自身がその力を付けるだけの努力と覚悟を持てるかどうか、そしてその中にもやりがいと喜びを感じることが出来るだろうか、と考えてみてはいかがでしょうか?

<お客様と一対一で向き合うことが出来る貴重なお仕事>

私たちの生活は今、人とのコミュニケーションも、買い物も、様々な社会的サービスも急速にデジタル化、機械化していますが、その結果、私たちは暖かな心のつながり、人との肌のふれあいの機会を奪われてしまっています。これによって、私たちの心は不安定になり、健康にも影響が出てきています。

生身で向き合い、五感をすべて使ってお客様に施術をさせていただける、それは今や大変貴重な体験です。わたしたちセラピストはお客様と施術ルームの中で、一対一で、短くても30分、長ければ2時間、3時間と、向き合い、お話を伺い、お身体に施術をさせていただきます。

居心地の良い、静かな施術ルームの中で、じっくりと、何の邪魔も入らず、こんなにもお客様と向き合うことができる、というのは今の、人との接触も心のつながりも希薄になっていく社会の中ではとても貴重で贅沢な働き方なのです。その分、チャレンジの多い仕事でもあります。

お客様とともに過ごす時間の中で、まず、お客様のお困りの事に対して、きちんと耳を傾けて、その根本原因や、お客様の心の状態を正しく把握することからセラピーが始まります。これが中途半端であれば、施術も中途半端になってしまいます。

ここでは「コミュニケーションスキル」が必要になります、と言ってしまうと、あたかもテクニックを身に付ければ誰でも出来る、と思いがちですが、そうではありません。
どれだけ私たちセラピストがお客様に「寄り添う」ことが出来るかどうか、お客様に「信頼」していただいて、心を開いて様々な情報をお話いただけるか、身をゆだねていただけるかどうかが最初のハードルであり、セラピーの効果を大きく左右し、お客様の満足度に影響するのです。

お客様に「寄り添う」ということが、お客様がセラピストを信頼し、心からリラックスし、施術に必要な情報を自ら提供していただくためと、お客様との心の距離を縮めるには最も重要なことなのです。

<寄り添うとは>

私達だれもが、無意識レベルであっても、誰かに自分の辛さや悩みをわかってほしい、と願っています。お客様もそれは一緒です。

お客様に寄り添うということは、お客様の目線に立ち、お客様の声を聴く、そして、お客様の傍にいる、と言うことです。セラピストが多くの場合、ここで失敗するのは、お客様の問題を自分の価値観で判断してしまうからなのです。寄り添うこと、それは「言うは易く行うは難し」です。

マイペースで物事を進めたいタイプの人はこの部分では努力が必要と言えます。主役はあくまでもお客様です。自分はお客様が元気になるためのサポート、支えとなる。自分がその立場にいることに喜びを見出すことが出来れば、セラピストは本当にお客様のお役に立ち、同時に、セラピスト自身も生き生きと仕事が続けられるのです。

<健康と美、ウェルネスを追求し続ける>

本物の美しさは健康に根差しているものです。それを手に入れたいと誰もが心の中で願っているはずです。ですからセラピストは「健康とは何か」に対して深く、広く学び、考え続けることが必要です。病気がないということが健康と言う意味ではありません。逆に、病気を持っていても、健康で、ウェルネスを得ることが可能です。ウェルネスとは、幸福な気分で心身ともに活き活きとして生きている状態です。そのウェルネスを目指すためには、生活そのものの変容も必要かもしれません。食べること、環境問題、運動、姿勢、心、すべてに興味を持ってやまない人は、自然に健康に向かっていくことでしょう。

健康についても美についても、常に新しい発見がありますから、一度学んだから、もうわかったつもりになるのではなく、柔軟さと広い視野を持ってアップデートし続けることが必要です。成長するセラピストはお客様への施術やアドバイスにも磨きがかかり、お客様にもより頼もしい健康のパートナーと思っていただけます。

<まずは自分の心と身体の健康状態を見つめる>

この世の中に心も身体も100%問題ない、という人間は一人としていないでしょう。自分は大丈夫、と思っていても、客観的に見たら課題がいくつかある、というのが人間であり、当たり前なのです。重要なことは、自分でそれに気が付いているかいないか、なのです。セラピストにはそれに気が付いていてほしいのです。

お客様の健康をサポートするはずのセラピストが、自分の心身の健康状態を客観的に把握していなければ、お客様の健康状態も正しく認識できないでしょう。

自分自身の課題と向き合い、改善の努力をする、ということが、健康の専門家である自分のセラピストとしての力となります。セラピストに課題があることは恥ではないのです。もともと課題がたくさんあって、それを克服、もしくは改善してきた経験のある人のほうが、お客様の心身のトラブルに対し、より共感的に、より的確な対応ができ、優秀なセラピストになれるのです。

<体力仕事>

セラピスト、というと、なんだか、素敵感があって、優雅なお仕事だと思う方が多いと思います。ですが、実は、毎日、何人ものお客様に施術をする。ということは、身体を使う、肉体労働なのです。

セラピストが施術を行う際、実はマッサージをする手の動かし方よりも、身体の使い方を習得するほうがもっと根本的に重要なのです。すでにセラピストとして働いている人の中にも、それがうまくできていない方は多いのです。

まだ20代であれば、それほど問題には感じられないのですが、30代、40代、50代と、齢を重ねていくと、基礎的な体力や身体の柔軟性などが低下していくため、疲れて続かない、手や腰が痛くなる、など問題として表面化してきて、施術を続けることが難しくなることもあります。

一流のスポーツ選手やダンサーも、まず、身体の動かし方の基本を身に付けなければ成長することが出来ません。なぜなら、それを怠ると、高いスキルの動きが習得できなかったり、身体の一部に負担が集中し、怪我や故障、疲労の度合いが上がるため、長続きしないのです。

家族にマッサージをしたら、数分であっても疲れた、という経験のある方は少なくないでしょう。セラピストの施術はその何倍もの時間ですから、しっかりとマッサージに必要な筋肉をつけ、効率的な身体の使い方を習得していく必要があります。また、これを通じて、自分の体力も向上し、疲れにくい身体が作られていくので、普通の方に比べ、齢を重ねても、故障が起きにくく、仕事の為の努力が、結局は自分自身の健康を守ることに繋がっていくのです。

<気力仕事 しなやかな心が強い心>

人間は一人として同じ人がいないように、お客様の健康状態も、性格も、心の状態も、すべて違うため、セラピストにとって毎回の施術が初体験です。リピートしてくださるお客様であっても、その日によってメンタル面も、疲労度合いも、身体の状態も変わります。

そして、サロンにわざわざいらっしゃるということは、辛いから癒しを求めていらっしゃるのであって、辛い時ほど、人は他人に対して攻撃的になりやすいわけですから、そういったお客様も受け止めるしなやかな精神力が必要です。

また、同じ施術をしても、相手によって、喜んでもらえるときと、不満足になってしまう時があります。ですので、マニュアル人間では決して良い仕事が出来ません。どのようなお客様にも満足していただくための改善を目指して工夫することに喜びを感じる、という性格はプラスに働きます。

また、小さな行き違いやミスでお客様に不快な思いをさせてしまうことになって、お叱りを受けることもあります。
そんな時、事実をそのまま客観的に把握し、「お客様に心よりお詫びする謙虚な気持ち」「何がいけなかったのか」「次に同じ失敗をしないために何をすればそれを回避できるか」だけを考えるようにする冷静な受け止め方をする訓練が必要です。

いつもはうまく行っていることを一回、二回失敗しただけで、「ああ、私って駄目だ」「能力がないんだ」と考えてしまうと、仕事に対する気力が失われてしまいます。

実は、心のトラブルを抱え、癒しを求めておられる人の中には、こういった極端な考え方の癖がついてしまっている方が多いのです。でも、それは考え方の癖であって、その人の持って生まれた性質ではないので、訓練によって克服することが可能です。これを認知行動療法と言います。

身体の慢性的なトラブルを抱えている人たちの多くは、その原因を作っているのが心である場合が多いのです。これを心身医学と言い、科学的にも証明されているのです。

ですから、もし、あなたがこのような考え方の癖を持っておられたら、まず、それを克服していくことが必要かもしれません。それがあなた自身の人生を好転させるきっかけにもなりますし、お客様に対する洞察力も深まり、より的確な対応に繋がって、ひいてはセラピストとしての質を上げることになるのです。

<セラピストへの道>

あなたはただ、サロンに就職したいだけなのでしょうか、それともセラピストとして人生を生きたいのでしょうか?それによって、セラピストになるために通る道が変わってきます。

専門知識や技術を学んだことがなく、しかも、サロン勤務も未経験な方に対してもセラピストの求人募集しているところは多く、それに応募して仕事に就いているセラピストもいます。企業側としても、技術は入社後の研修で身につけられるとして、むしろ、人柄や仕事に対する意気込みを買ってくれるケースも少なくありません。

研修を受けた後に現場で働くことが認められれば、いよいよセラピストとしてデビューすることになります。ただし、どんな会社でも、合理性を考えると、研修は最低必要な時間しか行うことが出来ません。ですから、研修を受けただけでは、必要最低限の仕事をこなせるだけの力しかつきません。これが、就職することをゴールとした場合の道です。メリットとしてセラピストになるための投資資金がほとんどいらない、と言うことです。

この場合、セラピストと呼ばれる方々は、基本、もみほぐしを目的とサロンに就職することが多く、どのようなお客様にも、マニュアル通りのコンサルテーションをして、マニュアル通りの施術をしてお返しするだけです。もちろん、それでも1年、2年、仕事に慣れるだけでも時間がかかりますので、その間は成長する自分を感じ、楽しくお仕事が出来るでしょう。この経験は決して無駄にはなりませんし、もし、そのあと、転職したとしても、その方たちにはセラピストとしての一定のスキルが身についているはずです。お客様の接遇にも慣れ、自信もついていることでしょう。

短い研修を受けた何人ものセラピストが同じメニューを提供しているサロンでは、それぞれのセラピストが同じ内容の施術をしなければ、お客様からのクレームになってしまいます。また、出来るだけお客様を回転させて売り上げを上げることが重要ですので、お客様にじっくりと寄り添う、お客様の主訴に合わせて毎回内容を変える余地がありません。
もちろん、中には、自由度の高いサロンもありますが、そもそも、知識も技術も必要最低限しかないセラピストが、自由度を与えられても、結局、より深めた内容の施術を提供することはできません。これが未学習未経験➡研修➡就職の道のデメリットと言えます。

では、セラピストとして人生を生きたい場合、どのような道があるのでしょうか?

たとえば、医者になるためには猛烈な勉強をして医学部に入り、そのうえで、大学で何年も毎日のように勉強してやっとインターンとして現場に出ることが出来ます。あとは現場でまた何年も鍛えられて、勉強会や学会に足を運び、最新の治療について勉強をし、様々な症例を経て、次第に一人前の医者になっていくのです。

セラピストは人の心と身体の健康と美をサポートするお仕事ですから、本来、一定の時間をかけて、専門の講師から深い専門的な知識と技術を学ぶ必要があるお仕事なのです。

想像してみてください。サロン配属の前の短期間の研修を受けただけで、様々な主訴を抱えてサロンにお越しになるお客様に対し、それに見合った知識と技術で対応できるでしょうか? 答えはもちろん、NOです。

結局、本当の意味でのセラピストとして人生を送りたいのであれば、人間の心と身体の癒しについて、まずはしっかりと勉強を行うことが必要なのです。これには当然、時間とお金がかかります。一概には言えませんが、質の高い学校は、セラピストを目指す方には決して安い、短いコースを勧めません。セラピストに必要なスキルを充分身に付けるためにはショートカットはないからなのです。

日本では、マッサージを行うための国家資格を取るためには、2300時間を越える専門的な勉強と国家試験の合格が必要となります。海外でも、米国やヨーロッパの多くの国々では、国家資格ではなくても、最低でも200~300時間勉強や実習をしなければ、マッサージ業を営むことが出来ません。なぜそうなっているかと言うと、お客様に安全に、ご満足いただける施術が出来るセラピストとしてスタートを切るにはそれだけの勉強が必要だからなのです。

いったん、未経験者としてサロンに就職してしばらく働いた方が、そのあと、専門的な勉強をするために、セラピストのスクールに入学されることは良くあります。その方々は、セラピストとして人生を生きる選択をされたのですね。

セラピストとして生きる、ということは厳しいこともありますが、周りも自分も元気になっていく喜びを味わい、自分らしく生きることが出来る一つの素晴らしい選択であると言えます。

Category / アロマコラム

Author / Kazue Gill

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