明日香の香り
長年あこがれていた奈良県明日香村に先月、引っ越ししました。明日香は石舞台をはじめとする多くの古墳や謎の石造物、聖徳太子の生まれた場所として有名ですが、それ以前に、貴重な日本の原風景が今も残っている場所です。
なぜ、この貴重な風景が残っているかと言うと、1980年5月に施行された、「明日香法」のおかげなのです。
1970年代、美しい自然の景観、貴重な日本の文化遺産が多い明日香が開発によって破壊される危機にありました。これに対し、盲目の漢方医御井敬三をはじめとする地元の人々が声をあげ、当時の首相、佐藤栄作に御井氏の肉声による嘆願のテープを送るなどして直訴したことが功を奏し、明日香法が制定されたことで、ギリギリのところで近代化の波に飲み込まれることなく、美しい風景が守られることになったのでした。
私は子供の時に修学旅行で明日香に来た時から、明日香は懐かしい日本の原風景としてずっと心の中にありました。こんな経験から、アロマセラピストになった後、「明日香 香り探検隊」というウォーキングツアーを2回開催するほど明日香に惹かれていました。
田舎道を歩いていると、様々な場所で花や果物、草から、畑から、色々な香りがしてくるのです。ウォーキングツアーでは気が付いた香りをすべてノートに記録し、誰が一番たくさんの香りを見つけられるかを競います。
引っ越しをした9月上旬は葛の花やオシロイバナがいい香りを放っていました。
花の傍を通るとふわっと香ってくる甘い香りは、引っ越しと仕事で疲れた心を元気付けてくれました。9月後半はキンモクセイが香り始めました。キンモクセイは二度咲きすることが珍しくないので、運が良ければ10月下旬に二回目のチャンスがやってくるかもしれません。
オシロイバナもキンモクセイも今年は一枝いただいて部屋の中に生けたので、家に帰ってからもずっと天国の香りに癒されていました。
あとは、長く伸びた夏草を農家の方が刈り取ったあとの香りもとても心を和ませます。
もうそろそろ夕暮れ時に収穫を終えて残った稲のもみ殻や落ち葉などを集めて焚火をしている香りがしてくるでしょう。朝晩、冷え込むようになると、焚火の煙はまっすぐ上昇せず、冷気に抑えられて横に流れ、黄昏の里山にたなびいていきます。
寒くなって、陽も短くなり、今年の終わりが近づきつつあると思うと、もの悲しいような気持ちと、今年もまた大した成果も進歩もないうちに終わってしまいそう!という焦りの気持ちとで、ちょっとブルーになったりもしますが、この焚火の香りと共に、黄昏の里山の風景は心の奥深くにずっと残っていくことは間違いありません。嗅覚神経から記憶の生まれる海馬、そして喜怒哀楽、情動の生まれる扁桃核へとつながることこそが、アロマセラピーの効果の重要な柱の一つなのです。
※明日香の名前の由来
明日香の地名の由来については、もっとも有名なのは安住の宿を意味する「安宿(アンスク)」という韓国語から来ているという説の他にも、インドのアショーカ王の名前を取った、または清々しい、と言う意味の言葉から来ているなど、諸説あります。
様々な技術を持った渡来人が多く住んでいた明日香には、亀石や二面石、猿石、鬼の雪隠など、何のために作られたのかがわからない、不思議な石造物が多く残されていて、古代日本の文化や出来事が何層にも重なっていて、非常に謎の多い場所でもあります。
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