初夏の香り
人があまりいないところを歩いていても、マスクをしていないとなんだか罪悪感を感じてしまうコロナ禍の日常。
本当は初夏のこの時期、マスクを外して歩くと色々な素晴らしい香りに出会えるのです。
先日奈良の新薬師寺を訪れたときに出会った香りが二つありました。
一つ目。
春日大社のうっそうとした森を抜け、新薬師寺に向って奈良らしい土塀の続く小さな道を歩いていた時、どこからともなく爽やかでフルーティなにおいがしてきました。
ふと見上げると土塀の向こうに一本の木があり、その木に薄黄色い小さな花がたくさんついていました。香りはそこからしてきているようです。
そして、もっと驚いたのは、音です。
それはその花の蜜を吸うために集まった無数の蜂のブーンブーンといううなるような音。
香りと音に圧倒され、しばし見上げていると、その家の二階の部屋のベランダに女性が出てこられたので、この木は何という木なのかをお聞きしました。
その木はケンポナシという木で、10年くらい前、お庭に新しい木を植えるときに、植木屋さんが、お宅だったらちょっと変わったものがいいよと薦めてくださったのがこの木だったそうです。
初めて聞くケンポナシという名前の木、早速ググって見ました。クロウメモドキ科の植物で、韓国伝統茶として飲まれ、二日酔い、肝臓に良い、などと書いてあります。
日本メディカルハーブ協会JAMHAのHPには『果実は球形の核果だが、果肉はほとんどない。
代わりに果柄が太く折れ曲がって肉質になり、冬に熟し、果実が黒色になり、果柄は梨の香りがする。
名前の由来:肥前(佐賀県、長崎県)地方では、ケンポコナシと呼ぶ。
(ケンポコナシってちょっと愛嬌のある名前!)
薬効など:利尿、解毒薬として二日酔い、嘔吐、口渇、大小便不利に用いる。
民間薬でこの果柄および果実を煎じてのむと酒毒を解し、悪酔、二日酔によく、嘔吐を止める作用があるといわれている。』 と書かれていました。
果柄とは果実の茎の部分のことで、確かに、その家の方も、「実はなりますが、実を食べずに、その実の茎の部分を食べると、かりんとうのような味がしておいしいのですよ」とおっしゃっていました。
さらに、ググってみると、ケンポナシ抽出物が、ロッテのフラボノガムに入っており、お酒を飲んだ時のアルコール臭を消す効果があると書いてあります。
とにかく、いつまでも香りを吸い込んでその場を離れがたい様子の私の姿に、家の方が少しお分けしましょうかと言ってくださり、花の咲いた枝を少し分けてくださいました。
やった~!!何の香りだとはピンポイントでは言えないのですが、それはまぎれもなく初夏の、涼しげでなぜだかとても懐かしい香りなのです。
そして、新薬師寺へ。境内へ入ったとたん、またまた芳香がしてきました。
こんどは入り口近くに植えられていた菩提樹の花が満開で、それが天の香りを放っていました。
菩提樹といえば、お釈迦様が悟りを得たときに座しておられた場所に生えていた木とされています。
ただ、新薬師寺にある菩提樹は、おそらくですが、それとは遠い親戚と言われている、
リンデン、学名Tilia europaea、というヨーロッパではよく街路樹になっている西洋菩提樹の方ではないかと思うのです。
なぜなら、気候的に、インドボダイジュは冬寒くなる日本では育たないらしいのです。
どちらにしても、西洋菩提樹の花の芳香はとてもリラックスする、鎮静作用が高い香りとして、アロマセラピーでも使われることがあります。
ただし、リンデンの場合、液体二酸化炭素や化学溶剤を使用して香りを抽出したエクストラクトやアブソリュートしかなく、厳密には精油ではないため、本来のメディカルアロマセラピーでは用いません。でも、香りを楽しむにはとてもおすすめの香りです。
奈良で出会った二つの香りは、夏の初めの記憶の香りとして私の海馬のどこかに確かにしまわれました。
幸せの香り
その昔、まだ自分がアロマセラピーに出会っていなかった頃のことですが、夫とネパールへバックパッカーの旅をしたことがありました。ここで私は二つのビビッドな香りの体験をしました。
あるネパール人の音楽教師のお宅に招かれたときのことです。その方の応接間は、ほとんど家具や装飾品がなく、コンクリートのたたきの床の非常に質素なお部屋でした。
たった一つ、その方が鉛筆で仏陀のお姿を描いた絵が壁の上の方に飾ってありました。仏陀はルンビニというネパールの地で誕生されたのです。このような、一見殺伐としたお部屋だったのにもかかわらず、私はとてもリラックスして、ふんわりとした幸福感で満たされていたのです。なぜでしょうか?
その理由がお部屋を出るときに分かりました。出窓に置かれた一輪挿しの花器に、白い花が一つだけ生けられていて、そのお花から天国のような素晴らしい香りがしていたのです。それは今思えばクチナシの花のようでした。
たった一つの花から放たれる芳香がこれほどまでに幸せな気分にしてくれたことに驚きを覚えました。
また、ネパール滞在中、アンナプルナの周りを巡り、5,400メートルの峠を越える17日間の長いトレッキングに行きました。かなり辛いトレッキングでしたが、自然の壮大な美しさはそれだけの価値がありました。
その最終日、緑の水田が広がる終着点の村が見える丘の上に来た時に、何とも言えない幸福な気持ちになりました。
そこにはキンモクセイの大木があって、その木から素晴らしい香りがしていたのです。
私はいつまでもそこに立ち続け、幸せな気分に浸っていたい気持ちでした。
香りだけでこんなに幸福な気分になれるとは!
その後、私はアロマセラピストになりました。
世の中にはストレスや過労にさらされてウツになってしまう人がたくさんおられ、ウツの原因や予防、治療の研究がたくさんありますが、その中でアロマセラピーの研究者により、精油の香りが脳に与える影響の研究も少なくありません。
ジャスミン、イランイラン、ローズやグレープフルーツの香りは、脳の中でエンケファリンやエンドルフィンという神経伝達物質を増やすことが知られています。
この二つの神経伝達物質の共通点は、鎮痛、抗ウツ、そして幸福感を惹起する点です。
なぜ、植物の香りがそのような変化を私たちにもたらすのか、そこには必ず理由があるはずです。動物である私たちは植物がサバイバルするために操られているようです。花は受粉により実をつけ、実は種として拡散させるという、植物が子孫を残すために必要なものです。植物は動けませんから、昆虫から哺乳類まで、様々な生き物を引き寄せ、その手伝いをさせるのです。その誘引手段の一つが植物の放つ香りなのです。
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