幸福の香り
昔、夫とネパールへバックパッカーの旅をしたことがありました。
ここで私は二つのビビッドな香りの体験をしました。
あるネパール人の音楽教師のお宅に招かれたときのことです。
その方の応接間は、ほとんど家具や装飾品がなく、コンクリートのたたきの床の非常に質素なお部屋でした。
一見殺伐としたお部屋だったのにもかかわらず、なぜか私はとてもリラックスして、ふんわりとした幸福感で満たされていたのです。
その理由がお部屋を出るときに分かりました。
出窓に置かれた一輪挿しの花器に、白い花が一つだけ生けられていて、そのお花から天国のような素晴らしい香りがしていたのです。それは今思えばクチナシの花のようでした。
たった一つの花から放たれる芳香がこれほどまでに幸せな気分にしてくれたことに驚きを覚えました。
また、ヒマラヤの5,400メートルの峠を越える17日間の長いトレッキングでは自然の壮大な美しさに感動しましたが、その最終日、緑の水田を見渡す丘の上に来た時に、何とも言えない幸福な気持ちになりました。
そこにはキンモクセイの大木があって、その木から素晴らしい香りがしていたのです。
私はいつまでもそこに立ち続け、幸せな気分に浸っていたい気持ちでした。
香りだけでこんなに幸福な気分になれるとは!
その後、私はアロマセラピストになりました。
日本ではストレスや過労でウツ病を発症してしまう人が多くいます。
抗うつ薬やカウンセリングでの治療に加え、精油の香りがうつ病の改善に役立つことも研究によって明らかになっています。
たとえば、ジャスミン、イランイラン、ローズやグレープフルーツの香りは、
脳の中でエンケファリンやエンドルフィンという幸福感を与える神経伝達物質を増やすことが知られています。
この二つの神経伝達物質の共通点は、鎮痛、抗ウツ、そして幸福感を惹起する点です。
なぜ、植物の香りが幸福感を与えるのか?
植物が生き残るための手段として香りがあり、昆虫や動物がその香りに操られているのです。
花を受粉させ、種を拡散させるための誘引手段の一つが植物の放つ良い香りなのです。
ちなみに、キンモクセイの香りが大好きな私はキンモクセイを焼酎に付け込んで、キンモクセイ酒も作ったりしました。
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