抹香とシキミ酸
日本語に「抹香臭い(まっこうくさい)」、というフレーズがあります。
仏教的なくさみがある、とか坊主くさい、とかいう意味だそうです。
坊主くさいって、、、、僧侶の方にはかわいそうなフレーズですが、そもそもこの抹香とは何か?
調べてみると、樒(シキミ)という植物の葉を粉にして作った線香とのこと。
樒は日本列島全域、台湾、中国に自制する固有種でした。
樒は神道で使われるお清めや魔除けの意味を持つ榊(さかき)と同様の使われ方をされていて、仏壇、時には神棚にも供えられるのみならず、香の材料にもなっていたのでした。
京都の西にある愛宕山は火伏の神として、毎年七月下旬から八月上旬にかけての「愛宕神社千日参り」の時期には多くの人が参拝に訪れます。この時に参拝すると、千日お参りしたのと同等のご利益が得られると信じられているからです。
山頂の愛宕神社では樒が榊のように使われています。
その愛宕山のふもとの宕蔭地区に樒原(しきみがはら)という、樒の名所だった場所があります。私は京都に住んでいた頃、よくそこを訪れました。越畑という隣の村のおいしいお蕎麦屋さんへ行く途中にあったからですが。
今はわざわざここを訪れる人は少なく、ひっそりとした棚田の美しいところです。
「愛宕山 しきみが原に 雪積り 花摘む人の 跡だにもなし」
「時雨つつ日数はふともあたご山しきみか原の色はかはらじ」
などの歌が詠まれていますので、昔はそれなりに名所だったのでしょう。
ところで、お香やお線香は現代では天然素材だけではなく、様々な人工香料が用いられているものがほとんどですが、抹香の香りを知りたいと、二オイフェチの私は樒の香りを探したところ、樒の粉だけを香料成分として用いたお線香が見つかりました。
和歌山県高野山大師堂から発売されている樒線香です。和歌山は、昔は日本で一、二を争う樒の生産地だったそうです。
他にも愛媛県東温市でも樒栽培が盛んで、ある農家さんが樒だけを香料として用いたお線香を作っておられます。
早速取り寄せて嗅いでみるとその香りはとてもさわやかで、甘みがある塗香のような香りです。塗香はお寺で写経をする前に身体に付ける粉末状の香です。
樒の実(八角によく似ている)は猛毒で、間違って食べると運が悪ければ死に至るレベルです。アニサチンという無臭の成分によるものだそうです。ただ、安芸の宮島の猿は樒の実を食べるらしいです。
香りの成分が多く含まれるのは葉や樹皮で、これを食べる人はいないので、こちらで人間の食中毒が起きることはまずないようです。
葉や樹皮にどのような成分が含まれるかというと、
⚫︎リナロール・・・ラベンダーやベルガモット、クラリセージ、クロモジなど多くの種類の精油に含まれ、鎮静、抗うつ、抗不安、血圧降下、鎮痛、殺菌作用などがあり、刺激も毒性も低い安全な成分です。
⚫︎1,8-シネオール・・・ユーカリやローズマリーなど多くの種類の精油に含まれ、去痰作用、抗アレルギー、殺菌、血流促進、鎮痛、抗炎症作用などがある。
⚫︎ミリスチシン・・・パセリやナツメグの精油に含まれ、抗酸化、抗炎症、肝臓保護、血管新生抑制作用があり、神経毒性がある。
⚫︎サフロール…サッサフラスやカンファーに含まれ、細胞毒性、発がん性がある。
⚫︎オイゲノール…クローブ(丁子)やタイム(オイゲノールCT)などに含まれ、抗感染、殺菌、鎮痛作用が強い
⚫︎アネソール…フェンネルやアニシードに含まれ、抗肥満、抗ストレス、エストロゲン様作用がある。
などです。樒の線香は特にこの中のオイゲノールやアネソールの香りを強く感じます。
ミリスチシン、サフロール、オイゲノール、アネソールは植物の中でシキミ酸経路という経路で生合成されます。このシキミ酸という物質は昔、科学者によって樒から発見され、のちに、多くの植物の成分がこのシキミ酸経路で合成されることが明らかにされたのです。
シキミ酸経路で合成される成分は強力な作用を持つものが多いように感じますが、それと背中合わせに毒性など、気を付けるべき特性も持ち合わせているものが多いようです。
それに対し、リナロールや1,8-シネオールなどのテルペノイド類はメバロン酸経路で合成されていて、こちらの経路で合成されたものは毒性の低い精油成分が多い傾向があると感じます。
精油の中には素晴らしい効果と背中合わせに注意すべき作用も併せ持つものがあるため、これらを主成分とする精油を使う場合、そこをしっかりと認識して使用することが必要です。
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